中間ストーリー34
〜名乗らぬ城〜
 (3/4)


破壊阻止軍が会議している時刻の30分前…
つまり、未名乗城がまだ放火されてない頃のことだった。

未名乗城東部にて…
その城が燃えた理由がここにあった・・・。


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城の東部には、刺々しい針葉樹の森が広がっている。
夜の闇が深い森と相俟って、ドラキュラの住む城の庭のような、そんな印象を与えていたのだが・・・。

そんな自然の象徴のような場所に、非自然の象徴のようなものが不自然に置かれていた。

具体的に言おう。
その『庭』に木々を覆い潰すかのように存在していたのは・・・。



三つ目のネコの紋章が刻まれた、一艘の巨大な飛行艇だった。


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飛行艇の内部はシンプルな構造になっており、管制エリアと操縦エリア、休息エリアの3つの領域のみに分かれている。
今は既に飛行艇は着陸後である為、数名のパイロットのみが管制エリアと操縦エリアに居るだけであった。

そして、彼らパイロットと1名を除く全ての船内の人間は、3つのエリアの中央に位置する円状の部屋に、武装して集結していたのだった。

さて、ただ一人仕事も無いのに集合していない「1名」は・・・。



携帯型通信機器を耳に当てながら、気だるげに寝室で寝転がっていた。



???「はい・・・、こちら俺の率いる第二師団第四小隊。眼が覚めたら未名乗城に到着していました・・・、・・・・・・どうぞ。」



通信機のマイクに向かって淡々と報告をしている、眼が半開きの気だるげなこの男の名はヘラルドといって、飛行艇のリーダーでもあった。
彼は怠惰に青髪と手足が生えたような人間であり・・・「面倒臭い」を口癖にしているような男だった。



ところで、軍において『報告』はそれ程珍しい事では無い。
寧ろ師団の性質によっては、戦闘している時間よりも報告している時間の方が長い師団すらある。



そして、ヘラルドは通信機に向かって何かを報告しているのだが・・・。



一見、「それ程珍しい事では無い」この事象。彼を良く知る者から見ると異常以外の何物でも無かった。
・・・彼の性格と、彼の行動を合わせて考えると、彼を良く知る者ならば事の重大さが伺えるだろう。



少しでも重要さに欠ける報告なら、「面倒臭え・・・」と呟いて握りつぶしてしまいそうな男が、自発的に報告を行っているという重大さ。
そういった普段の様子から、ヘラルドと飛行艇が割り当てられたこの任務は、それなりに重要なものであるという事柄が理解出来る。



・・・そして、耳を揺らすような濁音混じりの電子音と共に、通信機からヘラルドとは別の声が漏れ始める。




通信機の声「そうか、思っていたより早い到着だったな。何か目が覚めたらとか聞こえた気がするが、聞かなかった事にしてやろう。」



その通信機から聞こえてきた声は30代後半のモノであり、威厳と若々しさが同時に感じられるような、そんな声だった。



声の持ち主の名は、サイモン・L・オールドリッチ。

通称サイモンである。



「二神」という特別階級の一人であり、ヘラルド達に任務を命令する立場にあった。



・・・そして通信機の向こうの一人の神は、青髪の使徒に命令を下す。



サイモンの声「任務の詳細は知っているな?未名乗城に"National Treason"の四人組が匿われている、・・・と通報があった。
         四人組に気付かれぬよう未名乗城に突入後、四人組の反逆者を捜索。そして反逆者を見つけ次第・・・撃滅しろ。良いかね?」



ちなみにその四人組というのはこのザイレス国軍に反逆したという四人の事を指す。
メンバーの名前を言ってしまうならば、正男、浩二、ザトシ、クリスの4人である。
そう、ザイレス国の存在する『A Cloudy Day』の世界で正男達は社会の敵とされているのだ。



ちなみにこの時刻、正男、ザトシ、クリスは破壊阻止軍の基地に。
浩二は雪国の建物の中にいるので4人たりとも
未名乗城にいるはずはないのだが・・・




ヘラルド「・・・」



ヘラルドの耳にはサイモンの声が届いてはいたが、ヘラルドは返事を返したりはせず、
ただ眉根に皺を寄せて・・・寝癖の付いた青髪の頭を掻くだけだった。


それはサイモンも同様で、返事が返らぬ事に焦って、言葉を重ねたりはしなかった。
通信機からは何一つとして音が聞こえて来ず、通信機から流れてくるのは無言という音のみであり・・・
それは無言という圧力でもあり、それは無言という言葉でもあった。


やがて沈黙に耐えかねたのか、ヘラルドが緩慢に重々しい口を開く。


それは彼の口唇から放たれた、確かな鋭い一言。



ヘラルド「嫌です」


サイモンの声「・・・何故かね?」


ヘラルド「ぶっちゃけ、左腕正男に潰されて滅茶苦茶痛いし動かないんですよ。寝違えて首も痛いし、足腰も痛いし・・・やってらんねー。」


サイモンの声「・・・君は老人かね?」


ヘラルド「睡眠時間じゃ老人には負けない自信がありますけどね」


サイモンの声「・・・・・・そんな自信は全く以て不要だ。
         それと、君が本気を出せば左腕が使えずとも、ベイルですら無い四人組など捻りつぶせる筈だがね。怪我を憂慮する必要は無い。」


ちなみにこの時、4人がベイルになってからはザイレスの人間たちと戦ってはいないので
サイモンを含め、ザイレス軍の人たちは恐らく誰一人として彼らがベイルであることを知らないのだろう。


ヘラルド「いや、首も痛いし足腰も痛いし面倒臭いし無理です」


サイモンの声「最後のは負傷とは関係ないだろう・・・。後、その痛みの原因は全て寝過ぎだ、仕事したまえ。」


ヘラルド「仕事した結果として左腕を潰されたんですがね・・・」



のらりくらりと屁理屈を捏ね回すヘラルドに辟易したのか、サイモンは無駄話を止める事にした。



サイモンの声「・・・茶番も屁理屈ももういい、二神としての命令だ。さっさと任務を・・・捜索を遂行しろ。」



それは、些か強制力を持った発言だった。
有無を言わさず命令口調の物言いであり、拒絶を許さぬ淡々とした論調。

サイモンは会話も説得も色々と面倒になっていたので、雑談を切り上げようとしたのだが・・・。



ヘラルド「・・・・・・分かりましたよ・・・、面倒ですが、2,3日後に捜索を開始します」


サイモンの声「爽やかにサボろうとするな!今すぐ行けと言った筈だ!」


ヘラルド「・・・・・・実は、左腕も動かないし、首とか足腰も痛いんですよ、面倒ですし」


サイモンの声「同じ事を二度言うんじゃない・・・」



結局何だかんだで雑談という名の泥沼に嵌り込んだ両者。
サイモンの心には、「此処で通信を切って話を切り上げようか」という案も浮かび始めたが
此処で通信を切ってしまうと間違いなくヘラルドはそれに付け込み仕事しないだろうという事が
容易に想像できたので、その案に心の中で赤い×印の烙印を押した。



サイモンは、考えに考える。
思考を巡らせる。下らぬ事に。



ならば、ならばこれならどうだろう。
減給や降格など、色々と立場的な圧力を掛けてみる。
実際そんな事をする気は無いが、ヘラルドの性格なら降格や減給は露骨に面倒がる事だろう。
享楽を味わい、面倒を避ける事が出来るのは、金や立場の役割が強いからである。


そして、心の中で3秒程掛けて練り上げた第二案、『こけおどしの圧力』作戦にサイモンは青い○印の烙印を押した。



息を整え、思考を整理し、実行。



サイモン「・・・万一、君が此処でサボりつづけた結果反逆者を取り逃がすような事があれば・・・・・・
      給料がどうなっても知らんぞ?フタール氏での兵の損害・・・相当なものだったじゃないか。」



無言が続いた後、ヘラルドはため息を付きながら遠吠える。


ヘラルド「・・・・・・アンタ、それは持ち出しちゃダメなアレでしょうよ。」


サイモン「・・・隊長の座にあぐらを掻き過ぎだ。さっさと行くといい。」



無線の向こうから、ゴソゴソと出発の準備をする音が聞こえてきて、サイモンは安堵する。

3分程経ち、音が鳴りやんで、ヘラルドの出発する準備が整ったようだった。
ヘラルドは首をこきりと鳴らし、じゃらじゃらと音を立てながら十字架のブレスレットを装着する。

ライターを一つジャケットのポケットに入れると、通信機を諦めたように見据えながら皮肉を一つ。



ヘラルド「じゃあ準備整ったので、ちょっと行って叩いて潰してきますよ、サイモン人事部長」



サイモン「ああ、遠慮なく潰してきたまえ。 ・・・戦闘になった場合に備えて、後でギルバードも向かう手筈になってる。」


ヘラルド「そうですか、じゃあそれまでに正男は火葬にして骨は畑にまいて畑を豊かにしておきますよ。」



サイモン「・・・一つ質問が有るんだが、君は正男と戦いたい訳じゃ無かったのかね?


ふと疑問に思った事を口に出したサイモン。
ヘラルドは正男を特別視しているようだと感じていたサイモンにとって、そもそもヘラルドがこの仕事にそれ程熱意を見せなかったのは意外だ・・・という疑問だった。



ヘラルドは、それに対して二言答えを返す。


ヘラルド「一つは面倒だからというのと・・・。」
       奴を潰す時は、俺の全力で燃やし尽くすって決めてたんでね・・・。
       今は腕怪我してるので、半力で焦がし尽くす事しか出来ないですから・・・理由はそれだけです。」



憎しみともどかしさが入り混じったヘラルドの声に、サイモンは一瞬言葉を無くす。
ここまでヘラルドは正男に影響されていたのか・・・と。


そしてサイモンは・・・・・・密かに笑いを噛み殺すのだった。
その笑みは、ヘラルドを嘲笑うモノでは無く、考えもしなかった幸運を得たような笑み。



だが、そんなサイモンの様子にヘラルドは気付かなかった。

そして返事が来ない通信機の電源をプチリと切りながら、ヘラルドは誰にも聞かれぬ部屋に、言葉を残した。



ヘラルド「まあやらなきゃいけないってんなら、遠慮も加減もせずに焼き払いますけどね。」



そしてヘラルドは部屋の扉を蹴飛ばし、船の中央に足音を立てながら向かったのだった。



コツコツと。

コツコツと。

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5分前 未名乗城東部上空にて〜



???「ボガード警備隊長、船内で煙草は慎んで頂けるかね。」

ボガード「へえ、禁煙なんですねえ飛行船ってのは・・・知りませんでしたよ。では、喫煙コーナーとか無いんですかねぇ、ギルバード隊長様?

ギルバード(???)「運行上問題が出るらしいな、何か酸素がアレしてアレになるとか聞いた。
              ・・・軍人なら、飛行船で禁煙ってのは常識だと思っていたんだが、御存知なかったんだな。」


ボガード「そもそも飛行船なんてご大層なモンに我々警備部隊は乗ったりしないもので。
       警備部隊ってのは、拠点を警備する部隊って意味ですからねえ、ずっと拠点に引き篭もってるんですよ」



ギルバード「ああ、言われてみればそうだな。そりゃ知らないのも無理ないか。
         余程大規模な輸送でもない限り、飛行船なんか使わず輸送機で済ますしな・・・」

ボガード「さて、それに関連して疑問があるのですが、お聞きしても宜しいですかね、ギルバード第一師団隊長様?」

ギルバード「・・・改まってなんだ?」



ボガードは手に持っていたライターを弄びながら、苦笑いして核心的な事柄を問う。

ボガード「・・・なんで、私達はここに居るんです?」

ギルバード「・・・強襲任務に参加しているからだろう。」



口に残していた煙を、ゆっくりと余韻を楽しみながら吐きだしたボガードは、開けた口角をそのままに続けた。



ボガード「聞き方を変えましょう。・・・・・・どうして拠点を警備するのが仕事である私達が、その強襲任務とやらに参加してるんです?」

ギルバード「・・・知るか、サイモン様にでも聞くといい。」

ボガード「あー、任務を指示したのはサイモン様々ですか。我々警備部隊のことを何でも屋とでも思ってるんじゃないですかねえ、あの人。」

ギルバード「飛行船を警備するのも立派な警備部隊の仕事だぞ、隊長?」





そいつは初耳だ、とボガードが笑い飛ばしたところで、ギルバードの耳元に備え付けられている無線機器にノイズが奔った。



ギルバード「こちら第一師団。用件はなにか?」

サイモン「ギルバードかね、私だ。サイモンだ。」

ギルバード「噂をすればなんとやら、ですね。」

サイモン「噂してたのかね・・・? まあそれは兎も角、そろそろ目的地に着く頃だが視認出来るかな?」



ギルバードは飛行船のコックピットまでコツコツと足音を立てながら移動して、下界を見渡した。

・・・が、城らしきモノは見当たらない。



ギルバード「・・・ちょっと見当たらないですね。・・・そちらで当船の座標と目的地の座標を照らし合わせていただけますか?」



了解した、との返答を得たギルバードは、再び辺りを見下ろしたが、やはり城らしきものは見当たらなかった。

気になる点といえば、東の方角がほんのりと赤色に染まっていた点だったが・・・。

太陽でも昇ってきたのだと思い、特に気には留めなかった。



そうしている内に、再び無線にノイズが奔る。

サイモン「位置を照らし合わせたが、そんなに離れてはいない。視認可能な距離だ。」

ギルバード「ほう・・・方向はどちらです?」



コックピットの方向には城が見当たらなかったので、コックピットとは正反対の方向に城があるのだと判断できたが、念のために確認したギルバードだが・・・。

返ってきたのは、予想に反した単語だった。



サイモン「東。」



慌ててギルバードは再び東を見たが、別段変わった物は見当たらなかった。

赤く紅く染まった空間を除いては。

結論から言うとしよう・・・

つまり、未名乗城は正真正銘、火の海となっていたのだ。



ギルバード「・・・ひょっとして、アレが"城"なのか?」

冷や汗を流しながら思わず呟いてしまったその一言を裏付けるかのように、その赤々とした空間はゆらりゆらりと蠢いているようにも見える。

ギルバード「目的地が地獄だなんて聞いて無いんだがな・・・」

更に観察を続けるギルバードだが・・・。



やがて、冷や汗を誤魔化すかのように重い笑みを浮かべ、部下に命令する。

ギルバード「・・・耐火服だw」

兵士「え?」

ギルバード「耐火服を人数分用意しろ・・・・・・今から俺等が突っ込むのは、城じゃない。炎で彩られた、煉獄だ!」





数分後、着陸用意を完了させた飛行船の隅で、ギルバードは一人、炎塊と化した城を睨みつけていた。

よく見ると、城の中には正気か狂気か、耐火装甲も施されていない一般服の兵士すらも見受けられ・・・哀れにも炎に焼き尽くされている様子が見えた。

未名乗城を地獄同然にした奴が誰なのか・・・・・・。

犯人が誰なのかは、想像に難くなかった。



普通ならば反逆者の仕業と考えるのが筋なのだろうが、ギルバードにはとてもそうは思えなかった。

思い付いた犯人は、欠片の躊躇も準備も無く、思い付きの無茶で非人道的な計画を実行に移して確実に計画を成功させようとし、部下の命も厭わない冷酷な人物。





ギルバード「ヘラルドか・・・


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0分前 モニタールームにて〜

サイモン「ギルバードは目的地を捉えたようだな・・・。」

ガルティス「いつもの事ながら暇だなぁ・・・おいぃ・・・ガルティスマジダルティス・・・」

サイモン「・・・」

ガルティス「・・・」

モニタールームはなんとも言えない空気に包まれた。



ガルティス「悪かった」

サイモン「・・・気にするな、こういうのはお互い様だ。」

ガルティス「そういえば、さっきまで何やってたんだよォ?」

サイモン「ギルバードとヘラルドが、反逆者目当てに城を捜索する任務を実行していてな。その手伝いをしていたんだよ。」

ガルティス「仮にも二神がそんな雑用してる時点で組織として色々終わってるなあオイ・・・」

サイモン「言うな・・・何も言うな・・・。」

ガルティス「それにしても暇だァ・・・何か暇がつぶせるような事無いかァ?サイモン・・・」



サイモンは嗅ぎタバコを味わいながら、その無茶振りに対し的確な回答を用意した。

サイモン「ここはモニタールームだろう?折角だから、さっき私が話していた任務の現状でもモニターでチェックしてみないか?」

ガルティス「ほう、面白そうだな!盗撮か!」

サイモン「盗撮言うな」



サイモンは腰掛けていた椅子から立ち上がり、キーボードに命令を幾つか打ち込んで画面の立ち上げを待った。

やがて、青いノイズのような画面が晴れ、現場の様子が写ったのだが・・・。



二人の神が見た物は、城でも無ければ捜索している兵士達の様子でも無く、増してや捕らえられた反逆者の有様でも無かった。

・・・モニターに移っていたものは、メラメラと燃え盛る炎と、炎に焦がされる兵士諸君の様子であった。



サイモンは無言になって、モニターの電源を切った。

ガルティス「・・・」

サイモン「・・・」



椅子に足を組んで座りながら、深く深呼吸してサイモンは呻いた。

サイモン「・・・なんだ、今のは?

ガルティス「は・・・ハハ・・・ハハハハ・・・・w
         今のはきっと幻覚だろw あぁ、そうだ!そうに決まってる!!」

サイモン「冗談を言ってる場合ではない!」

ガルティス「おいおい、俺が冗談を言う人間に見えるのかよォ」

サイモン「盗撮とか言うような奴の言うセリフじゃないぞそれは・・・」

ガルティス「あれはマジで言ってたんだがな」

サイモン「って、それよりもモニターだ!もう一度確認するぞ!」



と、サイモンがもう一度モニターの電源を入れようと手を伸ばした。
しかし、結果が変わらないことは言うまでもないだろう。


サイモン&ガルティス「何じゃこりゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


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そして視点は二伸から変わり・・・


ザイレス本拠から100m位離れた所に、護衛された文官系の人達が住んでる"建物"があった。
その建物はザイレス国の国王が住んでいると言われているもので、外装は本拠地より少しソフトな雰囲気を感じさせる。

逆に本拠地と変わらないのは周りにいる警備兵が散りばめられており、本拠と同じくらい警備が厳重だということだった。
ただ、今は夜なのでそれほど警備は厳重ではないように見える。
その表の入口のサイドには警備兵が二人、銃を構えて立っていた。
その位置からは、それ以外の警備兵は見えるところにはいなかった。


そんな場所に、茶髪に魔術師のような恰好をした一人の男がやってきた。


警備兵1「止まれ貴様!何者だ!!」


建物の入口へと近づいた男に、警備兵2人は銃を向けた。
すると男は立ち止まり・・・


???「なーに、僕はただのお客様だよ。ちょっと国王と話がしたくてね・・・」


警備兵2「話?お前のような見知らぬ者が国王様がお会いになられる筈がなかろう!帰れ!!」


???「嫌だと言ったら?」


警備兵1「この場で撃ち落とすまでだ。」


???「そうか・・・なら、僕を撃ち落としてみたら?


警備兵1「な・なんだと・・・?」


???はそう言うと、無警戒に入口へと向かって歩き出した。

すると警備兵2は横にいる警備兵1と目を合わせ・・・


警備兵2「構わん撃つぞ!」


と、二人は同時に???目がけて発砲した。
しかし・・・


2方向から銃弾が目に見えないはずのスピードで飛んでくるにも関わらず
銃弾に手をかざし、更に手のひらを広げ、その手のひらのおよそ5cm先の所で銃弾は浮いて止まっていた。


警備兵2「な・・・」


男は静かに両手のひらを閉じ、銃弾を掴んだ。
そして手のひらを広げると・・・

銃弾は地面にコロンと落ちた・・・。


???「・・・マグネティック・フィールド


男が唱えた瞬間、地面に落ちた2発の銃弾はそれぞれの警備兵の腹部へと直撃。


警備兵二人「ガハっ!!」


腹部に血が付き、二人はやがて倒れ込んだ・・・。



今の技を見て侵入者が誰なのか分かったであろう。
数々の世界でお宝を狙おうと目論む、盗人レイドだ。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜建物の内部 王の間〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


この水色文字をクリックして下さい。BGMが変わります。


ここはレイドが侵入した建物の中心部にある部屋、王の間である。


この部屋は特別なものだった。
機能的な机やイス、棚などが広めの部屋に置いてあり、会議室のような雰囲気を思わせる。
もし、この部屋の特徴がそれだけならの話だが・・・。

この部屋を見ると、絶対に見逃すはずのない特徴が1つあるのだ。

それは部屋のあちこちに設置されたモニターである。


薄暗い部屋に、それぞれ異なった大きさの無数のモニターが机や壁、天井や床などに
そのモニターはまるで鏤められているように不規則に、建物内のどこかを映していた。

SFなどの物語においては黒幕が居座る部屋ではありがちといえばありがちだが
それを知らないこの世界の人間ならば、恐らく誰もが不気味に思うだろう。

その中には本拠地の外である何処かの街を監視カメラで映したであろう映像が映っているモニターもあった。
もちろんそれは城の入口の部分も含んでいる。

その映像にはレイドが映っていたが、国王である青年はそれを平然とした表情で見ていた。


国王(???)「俺に話って何だろう?」


ジャック「さあ、テメェのような奴と直接話したいなんてどうせロクな話じゃないでしょーよ」


国王の隣にいたのはジャックという護衛係の男。

ちなみに光る球の破壊阻止軍のジャックとは別人だよ!!
まさか9章と10章だけでジャックってキャラが3人も出るとはね!!


ジャック「↑何かいてやがるんだクソが」


国王(???)「ちょ・・・、モニターで見て思ったことを言っただけなのにそれはひどくない!?」


ジャック「第一、閣下に直接話に来るお客自体珍し・・・」


国王(???)「それよりさあ」


ジャック「いきなり話変えんな、ゲスが」


国王(???)「それよりさあ」


ジャック「無視かよ・・・」


国王(???)「まあ、中には今メイガがいるから警備は甘くないしね。
        もしあの侵入者がメイガを倒すことができたら、話をしてあげてもいいかな?」


ジャック「どこまでも上から目線で物事話してんすか、ぶっ殺しますよ」


国王(???)「お、きたきたw ついにメイガと対面だよw」


国王はモニターでメイガとレイトが対面する映像を目撃した。


ジャック「また無視かよ・・・まあメイガの奴がどう出るか・・・それによって答えは決まるな。」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜建物の内部 廊下〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


メイガ「ほう、一人の青年がのこのこと入ってくるとは・・・馬鹿なやつめ。」


廊下にしてはやけに広い空間だ。
広々とはしているが、ザイレス本拠地から運び込まれるものが多いせいか、やけにコンテナが多く置かれている。
その大きさは様々だが。

メイガはレイドを見て軽蔑しているようにも見えたが、周りには倒れてうつ伏せになっている兵士でいっぱいだった。
メイガはその状況を見て察した。



──この男は只者じゃない。
そして、ベイルである可能性もある。だとすれば最悪な状況だ。



レイド「キミがここの幹部かい?だったらちょっと話を聞いてくれないかな。」


メイガ「断る。」


レイド「なぜ?」


メイガ「お前のような見知らぬ者を、簡単に謁見させるわけにはいかんのだ。」


レイド「そう、なら仕方ないね・・・」


メイガ「やれやれ、私は出来るだけ戦闘は避ける主義なのだがね・・・」


メイガは光剣を懐から抜き出し、姿勢を屈んだ。そして・・・
突進。

レイドはそれをかわし、若干回転する動作を見せた。
一方でメイガはすぐにとり見直し、レイドに身体を向ける。


その刹那、レイドは懐から銃を取り出し、メイガにそれを向けた。


レイド「マグネティック・シューター


レイドは銃から弾を発射。というよりそれは一種のレーザーでもあった。
レイドのオーラは黄土色っぽいが、まさにそのような色をしたレーザーだ。


そんなものを避けるのはメイガにとっては容易いこと。
メイガは瞬時に姿勢を下げ、レイドもまた銃を連射しだした。



メイガ「やはり間違いない。貴様はベイルだな?


レイド「・・・。」


メイガ「その技の名前からすれば、磁界属性か・・・
     貴様が属性攻撃というのなら、こっちもそろそろ属性攻撃を出させてもらおう。メイズリル・フラット


唱えると、メイガの前に白い光がカーテン状に煌めき、やがて矢状に分化して
多量の矢が一斉にレイドに向けて発射された。


レイドは空間の近くにドッスンスンくらいの大きさのコンテナがあることに気が付き、それに手をかざした。
するとコンテナは引きづり込まれるように猛スピードで動きだし、レイドの盾となった。


メイガ(何?直接手を下さずに、あの大きさのコンテナを動かしただと・・・?)





大量の光の矢は次々とコンテナへと突き刺さり、コンテナの表面の凹凸は徐々に大きくなっていった。
そして・・・









そのコンテナには穴が開き、眼を瞑ってしまうほどの強い光が放たれた・・・やがてそれは死角となり、メイガから見てレイドの姿は見えなかった。
















メイガ「・・・やったか?」















レイドの声「あーぁ、言っちゃったか。」







メイガ「!? まだ生きているのか?」



レイドの声「残念だけど、必殺技発動後の『やったか?』はお決まりの負けゼリフなんだよねぇ・・・
        これまでたくさんの世界を旅してきたけど、そのセリフを吐いて勝った人は殆ど見たことないしね」



光が消えるとレイドはやがて姿を現し、こちらへ向かって歩いてきた。




メイガ「残念だが私はまだ負けを認めたわけではないw ・・・いや、負けるつもりもないがな」




レイド「キミなんかに用はないんだよ。さっさと終わらせて貰おう。」




メイガ「ああ、終わらせてやるさ。一瞬でな。



メイガはこれまで以上に不敵な笑みを浮かべ・・・




メイガ「ヴァイパー・レイン



そう唱えると彼の頭上に雲のようなものが出現。



レイド「ならばこっちも、マグネティック・フィールド」



レイドが左右に手を広げた。
すると周りの倒れた兵士たちのポケットからナイフが飛び出てそれが一気に集結。
レイドの手の中にそのナイフは集結し、彼はそれをキャッチ。

同じ大きさ、同じ形に並んだナイフが扇子のように自然な形で広がっており
やがて両手に同じものが持たれた。



メイガ(ナイフを念力のように一気にかきあつめ出すとは・・・奴は一体何者だ?)



メイガは気になったが構わずパチンと指を鳴らす・・・



するとその雲は形状を変え、一気に光の雨が降り注いできた。




メイガ「さあ、これで貴様も終わりだ!」



レイド「甘いね。結果がどうなろうとお前を仕留めればいいだけのこと。」



メイガ「?」



光の雨がレイドの頭上まで降ってきた。
しかしレイドはそれを避けようとはせず、ナイフをダーツのように次々よメイガ目がけて投げた。



そのナイフのスピードはとても凄まじいもので、光の雨がレイドの頭に直撃する直前で・・・



メイガ「ガハッ・・・!!」



ナイフの1つがメイガの右足のスネに刺さり、よろめいた。
それと同時にメイガの必殺技・ヴァイパーレインは停止。光の雨は消えてしまった。


だがメイガもやられっぱなしではない。


この程度で怯むほどメイガは弱くなどない。
むしろ強い。心も、そして実力も・・・。


容赦なく飛んでくるナイフの1つをメイガは右手でキャッチし、それを投げ返した。
すると・・・




レイド「ぐっ・・・!!」




レイドの腹部にナイフが刺さった。



たまたまもう1つナイフをキャッチしていたメイガは更にナイフを投げ込んだ。



レイド「ぐっ・・・!!」



レイドは痛みに耐えかねるようにその場にしゃがみ込み、腹部を抑えた。



メイガはレイドに近づき・・・。



メイガ「こんなところに何の用だ?まさか、この国に反逆するわけじゃないよな?」



メイガも右足に少々痛みが走っていたが、立ち上がれないほどでもなかった。
彼は立った体制のまま、しゃがみ込んでいるレイドを見下ろしていた。



レイド「・・・キミはさっき、僕にベイルだって言ったよね。」



メイガ「それがどうした」



レイド「・・・僕はベイルじゃない。ベイルになる方法が聞きたくてここに来た。



メイガ「貴様、何を言っている?ベイルじゃない奴が属性攻撃を使えるわけが・・・」



レイド「まあ、信じないのなら結構。ただ、僕らは別の次元から来たから、もしかしたら呼び名が違うだけかもしれないね。」


メイガ「そうか・・・。」


レイド「・・・もう僕に聞きたいことはないんだろ?差しなよ、トドメ。」


メイガ「・・・。(剣を振り上げる」


だがメイガもそこまで極悪人ではなかった。
何しろ、彼は表ではザイレス軍の非道な所業には忠実に従っており、上部からも信頼を得る程の実力もある。
しかしそれは表での話。本当はザイレスのやり方にはいろいろと不満を抱えているのだ。

メイガは人間を殺すこと自体にあまりためらいはないものの、この男の正体は気になるという部分がある。
それだけではない。もしこの男が国王に話をして、今後の国の方針を変えさせてくれるのであれば、それはそれで有難い。

と、一瞬メイガは自分に正直になった。



だがその時だった・・・。



???「メイガ、もうその辺にしておけ。王がこの者と話をすることを許した。」


メイガ「ジャック!!」


レイド「・・・来ると思ってたよ。」


メイガ「来ると思ってたとはどういうことだ?・・・貴様まさか、わざと負けたというのか?


レイド「ご名答・・・ww そうした方がてっとり早く国王と話ができると思ってね。
     僕が本気を出せばキミを倒すのはそれほど難しくないかも知れないけど、それよりも容易な方法だと思ったからね。」



考え直せば簡単なことだった。
メイガがレイドにナイフを投げたとき、レイドなら金属であるナイフなど、磁界で簡単に反発させられるはずだ。
だがレイドはあえてそうはしなかった。
てっとり早く国王と話をするために・・・。


レイドは立ち上がり、ジャックへと付いて行った。
ちなみに腹部から血は出ていたが大した出血ではなかった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜建物の内部 王の間〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


レイドはジャックに連れられ、王の間へと入る。
メイガは引き続き廊下での警備に戻った。



国王(???)「いらっしゃ〜い。俺に直接お客さんが来るなんてすごく久しぶりだよ!」


青年がソファーから立ち上がり、とても国王とは思えないほど無邪気なモーションで立ち上がった。


レイド「その年にして国王とは随分といい身分じゃないか。
     現に今の戦いだって、高みの見物をしていたんだろう?」


国王(???)「全部みてたよ?そして聞かせて貰ったよ?だって俺の役目はコマを動かすこと、だからねえ・・・」


レイド「・・・僕がここにどんな話をしに来たのか、もう知ってるよね」


国王(???)「あぁ、キミは魔力を持ってるけどベイルじゃない。そしてベイルになりたくてここに来たんだよね?
         でももし、嫌だと言ったら・・・?」


レイド「もし嫌だと言ったらキミを人質にしてでも聞き出すつもりでいるよ。
      でも、キミにとってベイルが増えることはメリットなんじゃないのかい?


レイドは国王の目を見つめ、言った。


国王(???)「よく分かったね。
        まぁ、ザイレス国にとっちゃデメリットかもしれないけど、俺としてはむしろ増えてくれた方が嬉しいねw」


レイド「だったら、キミにとっても僕にとっても悪い話じゃないだろう?w
     ここは1つ、国にバレないよう、教えてはもらえないかな?」


国王「あぁw 大歓迎だよ。
     それに、既に魔力を持ってる人間がベイルになるとどうなるか、俺も見てみたいしね。」


レイドと国王が互いに嫌な笑みを浮かべる。
まるで二人が手を組み、何かを企んでいる・・・そんな雰囲気だった。


ジャック(・・・こいつら・・・。)


国王(???)「ベイルになりたいなら、"あの教会"に行くといいよ。」


レイド「あの教会?」


ここで改めて説明しよう。
ベイルとは即ち、"A Cloudy Day"における能力者を差す。

普通の人間がベイルになるにはファーラーという老人がいる教会に行き
そこにある杯に触れる。

そしてその際に自分の精神世界へと飛ばされ、そこで"もう一人"の自分に勝つことでベイルとしての力を得ると。
だが負けてしまえばそのまま自分自身が死んでしまう。


国王はその教会について、そこでどうすればベイルになれるのか、レイドに説明した。


レイド「なるほどね・・・ありがとう。お蔭で今度こそ、いいお宝を手に入れられそうだw」



レイドは笑みを浮かべた。
これまで何度も邪魔が入って、最終的には手に入れられなかったお宝がほとんど。
しかし、今度こそ、苦労が報われ新しいお宝を手に入れられる。そう思った。



レイドは国王と話を付けた後、すぐに教会へと向かった。



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Mixture #3 "Truth"
from Nerve(雑音空間)


♪N64『Paper Mario』より ※BGM変更時
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