中間ストーリー30
〜小さな生命の哄笑〜
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闇男「嘘だと…?」


啓鬼郎が嘘を付くことで彼自身がどうなるのか、闇男は大体想像がついていたのだ。


啓鬼郎「ヘル・ハデスがリーダーとされる"支配者"は俺も含め
      怒り、恐怖、怨みといった感情が物質化したものだ。だがその感情に抗うものである『嘘』を付くことによって
       自身の身体を存在と共に失うこととなる。


闇男「お前…もしかして……」


闇男はその先を言えなかった。
とても、とても恐ろしかった。その先を言うのが・・・。


啓鬼郎「俺がヘル・ハデスと一心同体になりかけている今、嘘を付けば奴と一緒に消える。


闇男「それってつまり……死ぬということか…?


闇男が絶句する。


啓鬼郎「死ぬ…?死ぬだと…?ハッw
      ただの怨みの塊が、死ぬなどという言い方をされるとはなw」


闇男「怨みのカタマリ・・・?怨みだろうと恐怖だろうと、それは立派な感情じゃないか!」


啓鬼郎「だから言ってるだろう。只の不の感情の塊だとな。」


闇男「例え憎しみに満ち溢れた感情であろうと、それはたった1つの喜びで"楽しい"という感情を手にする。
    そうすれば、人間と一緒だ。人間だって感情の塊で出来てるんだ。だからお願いだ…
    俺と共に生きよう!この先も!」


啓鬼郎「何故貴様はそこまで俺を救おうとする・・・?」


闇男「そんなの決まっているだろう!
    だってあんたは…仲間じゃないか!!


啓鬼郎「何言ってんだ、お前。」


闇男「自分を犠牲にするなんて何かの冗談だろう?なあ!?
    他に何か方法があるはずだ!」


啓鬼郎「残念だが、その方法はありはしない。
     いや、仮にあったとしても、同化する前に実行することはできまい」


闇男「どうしてそんなこと言うんだよ!?
    俺に力を貸してくれるって…言ったのはお前じゃないか!!
    一緒に戦うって、これからも…ずっと……」


啓鬼郎「グダグダうるさいんだよ人間の癖に!!
     だからお前はいつまで経っても餓鬼なんだよ!!


闇男「……」


啓鬼郎「だが、貴様のそういうところは、嫌いじゃない…
     それにこれも約束のうちだ。ここでお前ごとヘル・ハデスに操られてしまっては
     それこそ約束に背くことになるだろう?」


闇男の体内で、啓鬼郎の精神が闇男の精神の手を握る。


闇男「それは…」


闇男は言い返せなかった。
確かに啓鬼郎は力を貸してくれている。今も、そしてこれからも。
啓鬼郎は闇男を庇うために犠牲になろうとしているのだ。そう…





───戦うことが、力を貸すことの全てじゃない


     人を庇うことこそ、"力を貸す"ことのうちだ───





啓鬼郎「闇男。これが私が貴様にする最後の手助けになるだろう…」


闇男「啓鬼郎。最後に聞かせてはくれないか…」


啓鬼郎「…何だ?」


闇男「嘘を付けば存在が消えるのが事実だろ。
    でも、お前はあくまで"嘘を付かない事を信条にしていると"言っていたが、それは強がりじゃないのか?」


啓鬼郎「…さあな。強がりかそうでないのかはこの際どうでもいい。
     ただ1つ言えるのは、無闇にその事実を明かせば心配させる奴が増えてしまうということだ。」


闇男「…」


〜〜


闇男は気がつけば本拠地の屋上にいた。


──意識が戻ったようだ。


力は入っていないようだが、ハデスの触手がまだ闇男の身体に纏わりついている。


もはや滅びる寸前のヘル・ハデスの邪眼に啓鬼郎の姿があった。
その姿はもちろん闇男以外の人間にもしっかりと見えていた。


闇男・浩二・ザトシ・クリス「啓鬼郎!!」


正男「あいつ…ヘル・ハデスに吸い込まれたのか!?」


水影「そんなまさか…!」


その光景を見て誰もが驚いただろう。
啓鬼郎の精神がヘル・ハデスの体内に移っていたのだから。


ヘル・ハデス「貴様…なぜ私の中にいる!!」


啓鬼郎「お前は今、あいつの体を乗っ取ろうとした。
     つまり、俺だってお前の中に入ることは可能だよな?


啓鬼郎は自らヘル・ハデスの中に入り、その状態で嘘を付けばヘル・ハデスごと自らが消滅する。
彼はそのことを承知していた。


ヘル・ハデス「こざかしい!ならばその前にお前の体を絞め殺す!!」


ヘル・ハデスは最後の力を振り絞って触手で闇男を絞め殺そうとするが…


啓鬼郎「出番だ、ジャック!!


???「でいや!!」


刹那、ヘル・ハデスの目玉と闇男の間に炎が横切った。
触手が焼き斬られ、ヘル・ハデスはふらふらとよろめき、地面の上へと落ちてしまう。
闇男に纏わり付いていた触手は炭となり、力なくして落ちた。


地球防衛軍一同「ジャック!」


正男「どうしてお前がここに…?」


ジャックの姿は列記とした人間。
しかし、先程の威力は炎体魔獣そのものだった。これは一体…?


ジャック「正男さん、これで、罪を償えた…かな……」


正男「大丈夫だ。お前は何も悪いことはしてない。
    それより、どうしてここに?」


啓鬼郎「実は、俺が前もって頼んでおいたのだ。
     俺があいつと分離して、あいつに万が一のことがあったらと…」


正男「俺たちが基地を出るときにいないと思ったらその為か…」


闇男「待てよ、てことは…
    啓鬼郎、まさか、最初から自分を犠牲にするつもりで…」


啓鬼郎「…誰が貴様等ごときの為に犠牲になるものか…
     仲間でもない、お前らの為に…、うんざりだ…。
     敵の為に自ら犠牲になるだ?笑わせてくれるw」


ヘル・ハデス「ぐっ…やっ…やめ…ろ……」


啓鬼郎が喋ったその刹那、ヘル・ハデスの身体が黒く染まり始めた。
ただの石炭だった。黒く染まると同時に、身体に少しずつヒビが入り始めた。


どうしてそんなことが起こったのか、闇男は理解した。


ヘル・ハデス「貴様等…これで終わったと思うなよ…。
        我々支配者は決して滅びぬ。十八覇者の感染を完全に止めぬ限り…。」


そこに立っている殆どの人間はヘル・ハデスの消滅に対する嬉しさもあったが
啓鬼郎が消える哀しみのほうが大きかった。
なぜだろうか…、ついこの前までは敵同士だったのに…。
ここにいるほとんどの人間がその思いが表情に出ている。





その表情には衝撃と哀しみが浮かんでいた。



かすかにそれが見えた啓鬼郎は呟いた───








でかい敵を倒すことが出来たっていうのになんだその目は……。



ったく、闇男と見分けも付けられなかった癖に、俺の消滅に悲しんでいるわけじゃないだろうな?



そうだとしたら、最期にお前等を…笑ってやる……



敵の死に対して哀しみを覚えるなんて、青い奴らだ。



最後の最後まで青すぎる…





























フハハハハハ...さらばだ.......青き人間共よ───




























啓鬼郎のその言葉が静かに掠れて消えていった。



啓鬼郎の姿が写っていたその巨大な目が白く濁り、焦点を失う。



最後に、静かに目を閉じた。



その体から、生命の力が失われた。



そして、ヘル・ハデスの体は啓鬼郎ともども崩れ去った───















闇男「ケエエイキロオオォォォ───!!!!!




闇男は力尽き、膝をついた。



闇男「くそ!どうしてだ!
    どうしてこんなことに…!!」


正男「…」


浩二「……」


ザトシ&クリス「……。」


トラス「…。」


皆は分かっていた。
さっき啓鬼郎が言った『お前らは仲間じゃない』…
この発言によってヘル・ハデスは消えた。
つまり、啓鬼郎の本心は…










空気が重くなった。
誰も口を開けなかった。

何を言えばいいのか分からない…


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♪from デジファミ音楽堂

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